矯正治療と歯の痛みについて

矯正治療と歯の痛みについて

矯正治療を始める時、患者さんが心配されるひとつに矯正装置をつけた後に生じる

痛みがあります。その痛みには、①装置をつけた後、歯が動き始めた時に生じる

痛みと、②歯の表面や裏側につけた装置(ブレース)が、頬や唇の内側の粘膜や舌が

こすれて傷や口内炎ができる二つの原因があります。

 

  • 歯が動き始めた時の痛み

まず、歯が動き始めた時に生じる痛みは、歯の表面に接着した装置(ブラケット)に

ワイヤーを入れると力が加わって歯が動き始めます。その時に生じる痛みには

個人差があります。歯が動き始めた時に痛みがあるかどうかは、患者さんが

“このような痛みがあった”いうように、次の診療所に行った時に矯正歯科医や

歯科衛生士に伝えて下さい。

矯正装置をつけた時に生じる痛みには、バラツキがあり気にされない患者さんも

います。痛みは、患者さんの体調や精神状態などによっても違います。

 

  • 痛みが生じるのはなぜ?

では、矯正治療によって歯を動かす時、なぜ痛みが出るのでしょうか。痛みが生じる

メカニズムは、“痛みの刺激が神経を伝わって脳に達し、痛みの中枢へと伝えられ痛い”

と感じるのです。

痛みへの感じ方は人によって異なり、強弱や持続日数なども変わります。矯正治療を

始めた時に生じる痛みは、歯に力が加わることによって“歯を支える骨に炎症反応が起きる”ためなのです。例えると、炎症反応は風邪を引いてのどが痛くなり、腫れて痛みが

出るようなものです。

この炎症は悪役ではなく、痛みを治そうとする大切な役割を担っています。歯が動く

場合には、歯を支えている骨の部分に一時的に痛みの物質(プロスタグランディン)が

出ます。そのため歯を動かす時に生じる痛みは、歯並びは咬み合わせを良くするために

必要なものですので、少し我慢をして頂きたいのです

 

  • 痛みが出た時の処置

人によって痛みに、“敏感な人”や“あまり気にしない人”など個人差があることは

前に述べました。しかし、矯正治療を始めて痛みが出ると、患者さんは不安になる

ものです。

通常痛みが生じるのは、①矯正装置をつけた時、②定期的にワイヤーを交換した時

です。歯が動き始めた時の痛みを表現すると、通常、“がまんできる痛さ”、

“食べ物が噛めない痛さ”です。痛みに対して敏感な人では、“顔をしかめる痛さ”、

“夜眠れない痛さ”などと例えられます。

私たちは装置装着時に、痛みが出た場合の処置について、次のように説明しています。

・痛みが出た時・

①やわらかい食べ物をとる(お粥やグラタンなど)

②痛みがでたら、温かい塩湯をしばらく口に含む

(歯根のまわりの血流が良くなり、痛みがやわらぐ)

③普段、のみなれている“痛み止め”をのむ

(強い鎮痛剤は副作用が出ることがありますので避けて下さい)

④矯正歯科医院に電話して、どうしたら良いかを聞く

患者さんの痛みは、本人しか分からないものです。

次回に診療所を訪れた時、どのような痛みがあったかを矯正歯科医や歯科衛生士に伝えて

下さい。患者さんからの情報により、私たちは歯の動きに配慮して交換するワイヤーの

サイズを細くするなど調整をしています。

痛みが出ると不安になりますが、通常数日でなくなります。あなたの歯並びやかみ合わせ

がきれいになるように、しばらく我慢して頑張って下さい。

 

  • 装置があたり、頬や舌に傷や口内炎ができた時

歯の表面や裏側につけた装置(ブレース)が、頬や唇の内側の粘膜や舌にこすれて、傷や

口内炎ができることがあります。矯正治療を始めてしばらくすると、装置になれてくるものです。

・傷や口内炎ができた時・

①口の中につける軟膏(アフタゾロンなど)をつける(皮膚用軟膏ではない)

②うがい薬を使う

③口内炎ができた時は、小さな貼り薬(アフタッチという商品名)を使う

④矯正診療所でもらったリリーフワックス(柔らかい保護材)やブラケット上を被う

シリコン製ガードをつける(矯正歯科医院でもらう)

参考文献:日本臨床矯正歯科医会 神奈川支部発行


鼻やのどの病気と歯並び

鼻やのどの病気と歯並び

口ポカーンは歯並びに影響することを知っていますか

  • 矯正治療をさまたげる口呼吸

鼻やのどの病気があると、口を開けて息をします。

本来、鼻で息をするものですが、口を半開きにして息をしている状態を

“口呼吸”と呼んでいます。近年多くの人がわかるように、口呼吸を

“口ポカーン”と呼ばれています。“鼻がつまれば、口で息をすればよいと

いうわけではない“のです。

なぜならば、口呼吸は歯並びや顔の成長に悪い影響を与えるからです。

口呼吸を続けていると、唇を閉じて前歯を外側から抑える機能がなくなります。

その結果、舌で前歯を押し出すくせ(舌のくせ)が出て、前歯を前方へ移動し、

“出っ歯”や上下の前歯が噛み合わない“開咬”になりやすいのです。

その上口呼吸は、矯正治療の歯の動きをさまたげ、矯正治療後の歯並びの安定

にも影響するのです。

 

  • 口呼吸の原因は、鼻やのどの病気

鼻やのどの病気などが、口呼吸の主な原因です。

  1. アデノイド(咽頭扁桃肥大)、口蓋扁桃の肥大
  2. 急性・慢性鼻炎、肥厚性鼻炎、アレルギー性鼻炎
  3. 鼻茸、副鼻腔炎その他、幼児期から指しゃぶりを小学生まで続けていると、口呼吸を引き起こすことがあります。
  4. “出っ歯”(上顎前突)や上下の前歯が咬み合わない“開咬”になり、

 

  • 扁桃肥大の影響は

扁桃肥大の害は、次のような症状があります。

  1. 扁桃が大きすぎると、鼻呼吸をさまたげる(口呼吸になる)
  2. 扁桃に溶連菌という細菌による巣ができて、腎炎、心内膜炎、心筋炎、
  3. 掌嚢胞症(皮膚炎)などが起きる
  4. 睡眠時の呼吸状態が苦しそうな呼吸、いびきをかく、息をつまらせる

 

  • 習慣性の口呼吸

鼻やのどの病気以外にあまり知られていないのですが、習慣で口を開けて息を

している人がいます。このような状態を“習慣性口呼吸”と呼んでいます。

習慣で口呼吸を続けていると“出っ歯(上顎前突)”、“開咬”や

“上下の前歯が前方に出ている”“上下顎前突”になりやすいのです。

前歯が出ている歯並びで、習慣性口呼吸が引き起こされている場合には、矯正治療

により歯並びが治ると口呼吸もなくなり、口も閉じられるようになります。

 

  • 口呼吸をしていると舌は下方に下がる(低位舌)

たえず口を開けて息をする習慣がつくと、口の中で舌の位置が下がってしまいます。

普段呼吸をする時は、“舌は上あごにつく”、“唇を閉じて鼻で息をする”を

心がけて下さい。飲み物や食べ物をのみ込む時、舌先は上あごにつけてのどの奥に

送り込みます。

口を開けた状態で、舌の位置が下がった状態は、“低位舌”と呼ばれています。

日中や夜寝ている時、口呼吸をして“低位舌”になると、口の周りや

顔の筋肉(表情筋)がゆるみます。口呼吸により絶えず口を開けている状態は、

他人からは“口もとがだらしなく”見えるのです。子どもの成長期に口呼吸が

続くと、歯並びや顔やあごの発育にわるい影響を与えます。

成人で“低位舌”になると、舌で前歯を押して出っ歯や前歯の間に間隙のある歯並び

(空隙歯列)になります。舌の訓練は、認知症の予防のためにも良いと言われています。

近年、歯科医や医師により、“よく噛むこと”と“舌の訓練”が健康に大事だと

言われています。

 

  • 鼻やのどの病気で口呼吸をしていると、次のような症状になりやすいのです。

✿歯並び・・・上下の歯列が狭くなる

✿舌の位置・・・低位舌になる。のみこみ方や発音がおかしくなる

睡眠時無呼吸(アデノイドや口蓋扁桃肥大)

✿顔の成長・・・間が抜けたような長い顔“アデノイド顔貌”になる

✿矯正治療・・・治療期間が長くなる。治療後の安定がわるい

✿その他・・・唇がカサカサになる。唾液が出にくい。口を開けていると外見がわるい

 

  • 鼻やのどの病気がある場合は、どうしたら良いか?

①耳鼻咽喉科医に相談する

“鼻がつまる”、“口を開けて息をする”、“いびきをかく”、“息をすする時に鼻をならす”

などの症状がみられます。このような症状は、鼻アレルギーや扁桃肥大(アデノイドや

口蓋扁桃肥大)、副鼻腔炎などの鼻やのどの病気で起きます。

②扁桃が小さくなる年齢まで待つ

③熱が出た時に薬をのむ

④手術をする

アデノイドは、子どもにとって健康上大きな問題ですので、耳鼻咽喉科医や私たち

矯正科医の意見を参考にして下さい。

参考文献:日本臨床矯正歯科医会 神奈川支部発行


埋伏している歯の矯正治療

埋伏している歯を矯正治療するには

  • 埋伏歯ってなに?

乳歯が抜けて永久歯にかわる時、乳歯の歯根や永久歯を被う歯槽骨は徐々に吸収され、

歯肉を破って歯が生えてきます。しかし、永久歯があごの骨の中に埋まったまま

生えてこない状態を“埋伏歯”と呼んでいます。

埋伏しているかどうか疑われる症状がありますが、埋伏歯は、患者さんの痛みや

違和感もありませんので、発見が遅れがちです。

埋伏歯があるかどうか、またその位置を確認することは、パノラマレントゲン写真や

歯科用のCTを撮影しないとわかりません。レントゲンを撮影して埋伏歯が見つかった

場合には、発見が早いほど矯正治療で歯列内に引出せる可能性が高くなります。

 

  • 埋伏する原因と頻度は

通常永久歯が生える時期になっても、歯冠(歯の頭)が出てこない埋伏歯には、

次のような原因が考えられます。

①歯列に歯が生えるスペースが不足している(あごが小さく歯列が狭い)

②外傷などで永久歯の芽の位置が移動した

③永久歯の芽の位置が、最初からおかしい

④過剰歯や障がい物が、永久歯が生えるのを妨げている

上の犬歯が埋伏している状態はわかりにくいため、放置されやすいのです。歯の治療時に

歯科医院でレントゲンを撮影して発見されます。埋伏歯が見つかった場合には、早めに

矯正歯科専門開業医に相談することをお薦めします。

上の犬歯が埋伏する頻度は、約2%で男性より女性の方が多いのです(約2倍)。

そして両側ではなく片方だけ埋伏の方が圧倒的に多いと報告されています。

厄介なことに約78%の上の犬歯の埋伏歯が隣の歯根にぶつかって、健全な歯根を短くして

しまうのです。

 

  • 埋伏歯を歯列内に誘導する方法は

レントゲンを撮影し埋伏歯を発見した場合には、

①遅くまで残っている乳歯を抜歯する

②矯正装置により歯列を広げてスペースをつくる

③埋伏している歯を被う歯肉の一部を切開する

④埋伏している歯に部品をつけて歯列内に引き出す順序でおこないます。

埋伏歯を助けるには、発見が早いほど隣の歯の歯根を短くすることもなく歯列内への

誘導がスムーズにいきます。

 

・前歯が埋伏している場合・

埋伏している歯の歯根が1/3程度未完成であれば、矯正装置により生える場所を確保

し歯列内に引き出す事が可能です。私たちは、埋伏歯を歯列内に引き出せるかどうかを

見極める条件として、

①埋伏している状態(傾斜、深さ)

②埋伏歯のまわりの状態(過剰歯、嚢胞、歯牙腫等)

③歯根の完成度

などにより矯正装置で誘導する方法や期間が決まります。歯列内に誘導しても歯根が

湾曲しているため、歯として使えない場合もあります。まれに埋伏している歯が、

まわりの骨と癒着している場合は引き出せません。

・上の犬歯が埋伏している場合・

歯列を広げたり乳歯の抜歯をしても、埋伏している歯が生えてこない場合には、

矯正装置をつけて埋伏している歯を引き出し、その後、全体の歯並びや咬みあわせを

治していくことが必要になります。

埋伏した犬歯のまわりに嚢胞や歯牙腫がある場合は、それらの除去も必要です。犬歯の

引出しを含めて、症状にもよりますが、目安として全体で1~2年の矯正治療期間が

必要でしょう。上の犬歯が埋伏している場合には安易に抜かないで、まず矯正歯科

専門開業医にご相談下さい。

参考文献:日本臨床矯正歯科医会 神奈川支部発行


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