透明なマウスピース型矯正治療(アライナー治療)と、ワイヤーを用いた矯正治療(ワイヤー治療)の違い(利点・欠点)

透明なマウスピース型矯正治療(アライナー治療)と、ワイヤーを用いた矯正治療(ワイヤー治療)の違い(利点・欠点)

 

最近、ワイヤーを用いた矯正治療に加えて、歯全体に透明装置をかぶせるアライナー治療が広がってきました。アライナー治療は十分な矯正治療のトレーニングを受けていない歯医者がこの治療を行うことも多く、いろいろな問題も起きています。矯正歯科治療を始める場合には、それぞれの治療を良い点、考慮するべき点などを十分知ったうえで、慎重に選ぶことをお勧めします。

1.審美性(人から見た感じ)について

ワイヤー治療は一般的に金属製のワイヤーと歯につけるブラケットで歯並びを改善するため、半透明のアライナー装置より目立つでしょう。しかし最近ではワイヤーもブラケットも白色のものがあり、ワイヤー治療でも比較的目立たない治療も可能となってきています。

 

2.治療中の装置の違和感について

矯正治療中はどちらの装置も違和感を生じることがあります。

ワイヤー治療では、はじめのうち、違和感や、歯に重い感じや痛みが起こることもありますが、1週間程度で慣れてきます。

一方アライナー治療では、新しいアライナー装置に交換する度に(一般的に1週間~2週間間隔)、一時的に歯が締め付けられるような違和感が起こることがあります。

 

3.歯磨きなどの口腔衛生について

ワイヤー治療では歯に装置がつくため、歯みがきをしっかりしなくてはいけません。

慣れるまで歯みがきは大変ですが、この習慣が一度身につけば、一生美しい歯を保てるという利点もあります。

一方、アライナー治療では、装置を外せば歯を直接磨けるため、一見むし歯のリスクは少ないと思われていますが、食後に歯みがきをしないで装置をつけると、かえって装置の中でむし歯菌が増えてしまいます。必ず歯みがきをして装置をつけるようにしましょう。

 

4.治療上の特徴について

ワイヤー治療では、1本1本の歯や上下の歯の関係を同時に改善できるため、ほぼ理想的な歯並びを得ることができます。そのため、治療後も安定した歯並びが長持ちします。

一方、アライナー治療では、歯を全体で改善するため、1本1本の歯を動かすのが難しい方法です。また、装置をつける時間は20時間以上必要で、装置と歯が浮かないよう特別な器具を使います。一定時間、装置が歯にしっかり入っていないと十分な効果が得られないため、頻繁に装置を取り外しする場合は、避けたほうが良いでしょう。

 

 

5.治療期間について

ワイヤー治療では歯を1本1本丁寧に動かすため、一般的に約2年から2年半程度かかります。

一方、アライナー矯正では状況によっては、1年半から2年程度で改善する場合もありますが、歯を抜く治療などでは、かえって治療期間がかかる場合もあります。

 

6.治療前の検査の重要性について

ワイヤー治療もアライナー治療も適切な治療を行うためには、治療前にしっかりした検査が必要です。一般的に頭部のレントゲンや歯の全体のレントゲン、そして歯の模型、顔や歯の写真などが最低必要です。これらを用いて、顎やかみ合わせの不調和、個々の歯の状態、口元の出方などを総合的に分析してから治療を行います。

 

[まとめ]

矯正歯科専門開業医は、歯の変化を治療後もできるだけ少なくする工夫をしています。

そのためにはしっかりした検査、方針を立てて、患者さんと共に治療を行うよう最善を尽くしています。ワイヤー治療もアライナー治療も、いずれもしっかりした治療技術を持った矯正医に一度相談することをお勧めします。

 

日本臨床矯正歯科学会神奈川支部より引用


矯正治療のリスクと限界

矯正歯科治療に伴う一般的な リスクや副作用 について

矯正歯科治療を進めていくためには、患者さんによるご協力と治療に関する知識が大切です。それにより良い過程と結果を生むことになりますので、体の治療と同じようにいくつかのリスク及び限界があることを認識しておく必要があります。

① 最初は 矯正装置による不快感、痛み等 があります 。 数日間 1 2 週間 で慣れ ることが多いで す 。

② 歯の動き方には 個人差 があり ます。そのため、 予想された 治療期間が 延長 する可能性が あります。

③ 装置の使用 状況 、顎間ゴム の使用 状況 、 定期的な通院等、 矯正治療には 患者 さんの協力が非常に重要であり、それらが治療結果や治療期間に影響します。

④ 治療中 は 、 装置が付いているため歯が磨き にくくなります。むし歯や歯周病のリスクが高まりますので、丁寧に 磨い たり、定期的な メンテナンスを受け たり する ことが重要です 。 また、歯が動くと隠れていたむし歯が見えるようになることもあります。

⑤ 歯を動かすことにより 歯根 が 吸収 して短くなることがあります。また、歯ぐきがやせて下がることがあります。

⑥ ごくまれに歯が 骨 と 癒着 していて歯が動かないことがあります。

⑦ ごくまれに 歯 を動かすことで神経が 障害 を受けて壊死することがあります。

⑧ 治療途中に金属 等のアレルギー 症状が出ることがあります。

⑨ 治療中に「顎関節で音が鳴る、 あごが 痛い、口が開けにくい」などの顎関節症状が出ることがあります。

⑩ 様々な問題により、当初予定した治療計画を変更する可能性があります。

⑪ 歯の形を修正したり、咬み合わせの微調整を行ったりする 可能性 があります。

⑫ 矯正装置を誤飲する可能性があります。

⑬ 装置を外す時に、エナ メル質に微小な亀裂が入る可能性や、かぶせ物(補綴物)の一部が破損 する可能性 が あります。

⑭ 装置が外れた後、 保定 装置を指示通り使用しないと後戻りが生じる可能性が高くなります。

⑮ 装置が外れた後、現在の咬み合わせに合った状態のかぶせ物(補綴物)やむし歯の治療(修復物)などをやりなおす可能性があります。

⑯ あご の成長発育によりかみ合わせや歯並びが変化する可能性があります。

⑰ 治療後に親知らずが生えて、凸凹が生じる可能性があります。加齢や歯周病等により歯を支えている骨がやせるとかみ合わせや歯並びが 変化 することがあります。その場合、 再治療等 が必要になることがあります。

⑱ 矯正歯科治療は、一度始めると元の状態に戻すことは難しくなります 。

*その他、治療に関してのご質問等は歯科医師ならびにスタッフにご相談ください。


楽器の演奏と矯正歯科治療について

✿楽器の演奏と矯正歯科治療について

音楽は人生を豊かにするものであり、音楽を楽しむ中で、歌を歌ったり、楽器を演奏したりする人も多いと思います。しかし楽器の中には、演奏することによって、歯ならびが影響をうけることがあるといわれています。

歯ならびは、歯のまわりの舌、くちびる、ほほ、などの筋肉の力の影響をうけています。

それらの筋肉の良くない動きや、歯を押すくせなどにより、歯ならびが悪くなることがあります。このような場合には、矯正歯科治療と並行してくせをとるトレーニングを行います。

そのため楽器を演奏するときや口や顎(あご)の使い方によっては、歯ならびを悪くしてしまうこともあるでしょう。

 

  • 楽器の演奏と歯ならびの関係●

では、どのような楽器の演奏が歯ならびに影響するのでしょうか。演奏に口や舌を使う管楽器の演奏では、くちびるを楽器に当て、舌や顎(あご)の位置、口のまわりの筋肉を使って演奏します。

演奏自体に個人差が大きいため、歯ならびへの影響もそれぞれ違いがみられるようです。逆に歯ならびの状態によっては、演奏しにくい場合もあるかもしれません。

 

  • 矯正歯科治療と楽器の演奏を両立させる●

吹奏楽部などで楽器の演奏もしたい、歯ならびも治したい。このような場合はどうしたらいいのでしょうか。

いくつかの解決方法があります。

①矯正歯科治療による影響の少ない楽器を選ぶ。

②矯正歯科治療と楽器演奏に取り組む時期をずらす。

現在は歯を支えている骨がしっかりしていれば、矯正歯科治療の開始時期に年齢制限はありません。

矯正歯科治療では、一本一本の歯を正確に動かすことができるようにブラケットとワイヤーを歯の表面につけて行う方法(固定式装置)が多く行われています。

矯正装置をつけて演奏するのに慣れるまで、演奏しにくい期間がありますが、少しずつ慣れていきます。場合によっては、担当の矯正歯科の先生と相談して、影響の少ない矯正装置を検討しても良いかもしれません。

一般的に、クラリネットやサックスは下の前歯が装置の影響を受けやすいと言われています。金管楽器では、トロンボーンやチューバでは影響が出にくいと言われています。

 

  • 患者さんの体験談●

矯正歯科治療をしながら中学・高校と吹奏楽部に所属していた患者さんの話を紹介します。

入部前に矯正装置をつけていたためか、特に楽器の演奏が大変だなどはなかったと話してくれました。中学ではホルン、高校ではファゴットでしたが、どちらも問題はなかったそうです。ただし、演奏するときにブラケットがあたるときは、矯正歯科医院でもらったワックスを付けて、痛くないようにしていたとのことです。

患者さんの中には、矯正歯科治療を始めるにあたり、楽器を変更する人や大学へ進学してから矯正治療を開始する人もいます。

 

  • 矯正歯科治療をするときに気をつけること●

楽器演奏を行う患者さんが矯正歯科治療を受けるときは、どのようなことに注意したらいいでしょうか。

①治療開始前に、楽器の演奏をしているか、またはこれから楽器を始めようとしていることを、担当の矯正歯科の先生と部活の先生に相談してみましょう。そのときにどのような楽器をどのように演奏するのか話してみてください。

②演奏中に矯正装置とくちびるやほほがあたる場合は、ワックスや市販の楽器用プロテクターなどでカバーしてください。

③矯正治療期間を長引かせないために、

1.歯磨きはしっかりする

2.万一、矯正装置が壊れたら、すぐに連絡して直してもらう

3.定期的にしっかり通院する

4.矯正治療に必要な指示は必ず守る

など、歯ならびがきれいに治るように積極的に取り組みましょう。

 

日本臨床矯正歯科医会 神奈川支部発行


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