永久歯の数が足りない子供が増えています

①データでは先天性欠如歯が増加

生まれながら、何らかの原因により28本の永久歯のうち、数本の歯が足りない(先天性欠如歯という)人がいます。
このような「永久歯先天性欠如歯」の子どもが、10人に1人いることが2010年11月、日本小児歯科学会の調査で分かりました。
先天性欠損歯は、かかりつけの歯科医や学校健診で指摘されるまで本人や保護者も気がつかないことが多いようです。
先天性欠如歯の有無は、生え変わる時期が過ぎても乳歯が残っていることがひとつの目安になります。
先天性欠如歯の疑いがある場合には、歯科医院でレントゲン撮影による確認をお勧めします。

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②先天性欠如歯の原因は
先天性欠如歯の原因は、家系の遺伝子以外に永久歯の歯胚(出来始めの歯)の発音を妨げるような
感染、薬剤、栄養障害、外傷などの環境的な要因が影響していると言われています。人類学者の藤田は、
永久歯数の減少は進化現象によるもので、顔は咀嚼器官の退化によって相対的に小さくなりつつある。
これに同調して、歯は小さくなり歯数の減少につながっていると述べています。人類の進化は、単純化、小型化、欠如へと進んでいるようです。
先天性欠如歯の前兆として乳児の乳前歯に癒合歯(2歯がくっついて1歯に)がある場合、
その下に生えてくる永久歯が欠如する率は約40%という報告があります。

<先天性欠如歯の目安は>
1)乳前歯に癒合歯がある
2)奥歯の乳臼歯がいつまでも残っている
3)両親のどちらかに先天性欠如歯がある
これらの場合には、先天性欠如歯の確率が高くなります。

③欠如が出現する場所は
欠如が出現する場所は、顔の中央から2番目に生える側切歯(前歯)と、
5番目に生える第2小臼歯(奥歯)で多く認められます。
7歳時でエックス線写真上において永久歯の歯胚が乳歯の根の下に確認されないと、約9割の確率で永久歯が欠如するとされています。
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④歯並びへの影響と矯正治療は
永久歯が欠如していると、空隙歯列(すきっ歯)になったり、
欠如している場所に隣の歯が倒れ込んで、本来咬み合う上(または下)の歯が延びてきたり、
咬み合わせが悪くなる可能性も高くなります。
そのため咬み合わせを治す矯正治療や、ブリッジやインプラントなどの人口の歯で欠如部分を補う治療が必要になります。
矯正治療により歯を移動させて、スペースの閉鎖が可能であれば、
歯の寿命を延ばし人工物を入れないという理想的な方法を考えられます。

<治療法としては>
1)矯正治療で欠如部のスペースを閉じる
2)矯正治療で倒れている歯を起こして欠如部のスペースを作り、治療を行う
※平成24年4月から6歯以上の先天性欠如歯を有する患者さんの矯正治療に保険適用が認められました。(指定医療機関において)

<乳歯を活かせる場合もある>
本来永久歯は、乳歯が脱落したその下から生えてきます。しかしその永久歯が欠損していると、
乳歯は脱落せず本人も乳歯とは気づかずに成人します。
そして30代、場合によっては40代、ごく稀に50代以上まで残ることもあります。
このような場合には、日々のブラッシングなどの予防対策が重要になります。

上の前間の間に、余分な歯が生える
1、余分な歯は過剰歯
乳歯から永久歯に生え変わり、上の前歯の間に1本余分な歯が生えてくることが稀にあります。
この余分な歯を、正中過剰歯(せいちゅうかじょうし)と言います。
過剰歯は、上の前歯の間に出現しやすく、大きさは小さくつぼみ状の形をしています。
過剰歯が顎の骨のなかに埋まっている場合には、上の前歯が約5㎜以上開く症状(正中離開という)があります。
しかし、正中離開は、上の中切歯の隣の側切歯(2番目の歯)が先天性欠如している場合にも起こるこがあります。
“過剰歯が骨の中に埋まっているか”“2番目の前歯が欠如しているか”は、歯科医院でレントゲンを撮影して確認する必要があります。

2、その原因と矯正治療は
過剰歯の原因は、母親のお腹の中で正常な歯以外に1~2本多く歯胚ができ、先天的な病気などが影響すると言われています。
過剰歯が、前歯の間に生えている場合には抜歯が必要です。なぜなら、早期の抜歯により隣の歯が移動して正中離開が自然に閉鎖する可能性があるからです。
過剰歯が顎の骨の中に埋伏している場合、抜歯は困難になるため、局所麻酔注射や抜歯手術に耐えられる年齢まで経過をみることがあります。
抜歯後、上の前歯の間に大きなスペースが残っている場合には、矯正治療が必要になります。

参考文献:日本臨床矯正歯科医会 神奈川支部

 


反対咬合について パート1

①反対咬合の具体的な症状
正しい歯並びでは、上下の前歯の位置関係は上の歯が前で下の歯が後ろに位置しています。
これとは反対に、上の前歯が後ろで下の前歯が前に咬んでいる歯並びを「反対咬合」といいます。
また「受け口」と呼ばれることもあります。
「反対咬合」には、ごく軽度から重度の症状のものもあり、全ての症状に同じような治療方法が適応できるとは限りません。
それでは簡単に反対咬合の症状を説明しましょう。

骨格性反対咬合
顎骨に原因がある反対咬合を「骨格性反対咬合」といいます。
つまり下あごが大きすぎることに伴って、下の前歯が上の前歯よりも前に出ている状態で、
歯並びよりも顎骨が原因で反対咬合になっていると言えます。
「骨格性反対咬合」では、身長の伸びにより下あごが成長し治療期間が長くなる傾向があります。
さらに上下の顎骨のズレが重度であれば、成人になってから外科手術を行い、下あごを短くして咬み合わせの治療を行うことがあります。
左の二枚の写真は同じ患者さんです。左側が学童前期の横顔で、比較的正常なあごの形をしていますが、
右側の成長後の写真では下あごが前方に成長しているのが分かります。

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機能性反対咬合
「機能性反対咬合」とは、正しい下あごの位置で咬もうとすると、
上下の前歯が先に当たってしまい、奥歯が全く咬めない状態です。
奥歯を咬み合わせるためには、下あごを前に突き出し前歯が当たらないようにして咬むと奥歯が合います。
このように下あごを前に突き出して前歯が反対に咬む症状を、「機能性反対咬合」といいます。
「機能性反対咬合」では、わずかに前歯の位置がずれていることが原因です。
そのため顔つきは反対咬合特有の下あごが突き出た横顔ではないことが特徴です。
矯正治療に関しては、早期(幼稚園児から学童前期)に矯正治療を始めれば、比較的簡単に治ります。
しかし、「機能性反対咬合」でも、成長発育で下あごが大きくなることがあり、
「骨格性反対咬合」に移行してしまう場合がありますので下あごの成長の定期的な観察が必要です。

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②原因は?
原因は、複数考えられます。「骨格性反対咬合」の原因で考えられるのは遺伝です。
当然親子であれば顔が似ているように、顔や顎骨も同じような形態に育ってくることは多くあります。
「機能性反対咬合」の原因は、舌で下の前歯を押し出す癖が考えられます。
物を飲み込む時に、無意識的に舌で下の前歯を押し出す癖は、反対咬合の患者さんの全員といっていいほど認められます。
また扁桃腺が大きいことによって、この舌壁が引き起こされるという考えもあります。
つまり、舌の後ろにある扁桃腺が大きいと、舌が前方に押し出され、さらに舌の力により下の前歯が押し出されていると考えられています。

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③反対咬合は治した方がよいのでしょうか
反対咬合は、できれば早期(幼児園児から学童前期)に矯正治療を開始することをお勧めします。
それでは反対咬合の歯並びは、なぜ治療する必要があるのでしょうか。具体的に説明します。
反対咬合を治したいと考えている患者さんの多くは、反対咬合の歯並びに対してコンプレックスを感じています。
下あごの出ている顔つきを友達から指摘され、精神的に傷ついてしまう人や、下あごが大きいことを非常に気にしてしまう人もいます。
他の歯並びに比べると、反対咬合は本人のコンプレックスに繋がりやすいと推測されます。
また、反対咬合の本人が低年齢で本人が気にしていない場合でも、
思春期になり情緒が発達すると、急にコンプレックスに感じ始めることがあります。
そのため低年齢の時に治療すべきであったと後悔してしまう患者さんもいます。
将来の精神面を含め、下あごの成長発育を見据えて矯正治療をすべきかどうか考えましょう。
反対咬合は、飲み込む時や話をする際に、舌を前方に突き出す癖が習慣となります。
そのため、飲み込む時に舌で下の前歯を押し出したり、下あごを突き出す癖や、発音障害が出現します。
特に発音障害は、サ行タ行の発音が独特になり、将来の職業、例えば人前でスピーチをしたり、英会話などに影響を及ぼす恐れがあります。

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④反対咬合の矯正治療を開始する時期
反対咬合は、他の歯並びと違い、発音などの機能的な障害はもちろん、下あごの成長発育にも影響があると考えられます。
そのため早期(幼稚園児から学童前期)に治療を開始することが望ましいと考えられています。
しかし、矯正治療を開始する時期は、担当する矯正歯科医により若干の違いがあることがあります。
ここで一番大切なことは、治療の開始する時期を決定してもらうには、矯正治療を専門に開業している矯正歯科医に相談することです。

具体的な治療方法についてはパート2でお知らせいたします。

参考文献:日本臨床矯正歯科医会 神奈川支部


反対咬合について パート2

パート1では、
反対咬合の具体的な症状と原因について機能性反対咬合と骨格性反対咬合の原因についてご説明しました。
今回は、2種類の反対咬合の治療方法についてご説明しましょう。

①反対咬合の治療開始時期について
反対咬合の矯正治療を開始する時期は、その症状や原因、その種類(機能性か、骨格性か)初診年齢などによっても違います。
反対咬合は、どちらのタイプであっても低年齢で早期治療を開始するのが基本的な考え方です。
家系に反対咬合を認める場合は、増齢により身長が伸びる頃には、下あごも一緒に症状がひどくなる傾向があります。
そのため、要注意な不正咬合であり治療期間は長期に及ぶことがあります。

反対咬合治療の考え方は、まず早期治療(一期治療)をおこない、
その後の歯並びや下あごの成長を観察し、必要ならば本格的治療(二期治療)で仕上げをおこなうことが基本です。
なぜならば、早期治療をおこなっても、永久歯が全て生え揃う12歳頃は下あごの成長が一番盛んな時期だからです。
歯の生える位置の異常や習慣などによる機能的な反対咬合は、
原因が局所的であり下あごの成長により影響を受けないため一期治療のみで終了することが多いでしょう。
一方、家系に反対咬合を認める場合には、身長の伸びにつれて下あごの成長が突き出してくるため要注意なのです。
そのため、矯正治療を装着で下あごの成長を抑え、上あごの前方への発育を刺激するなどをおこない長期に経過を観察しなければなりません。
家族の方にお聞きし家系に反対咬合の人が見当たらない場合であっても、
成長期に身長の伸びにより下あごが盛んに発育してくるケースに遭遇することがあります。
日本人では、反対咬合が世界で一番多い国民であり、発言頻度は5~6%と言われています。
私たちが知らない先祖に、反対咬合の方がいたのかもしれません。

 

次のような反対咬合の症状は、早目にご相談ください
1)上下の前歯が、逆のかみ合わせ
2)下くちびるや下あごが前方に出ている顔かたち
3)食べ方や噛み方がおかしい
4)サ行などの発音がはっきりしない
5)家系に反対咬合の人が多く見られる
このような症状に気づいた時には、まず私たちの矯正専門開業医にご相談ください。
治療時期が早い場合には、矯正歯科医院で定期的に経過観察を行います。

治療開始時期の目安を、フローチャートにすると・・

まず相談

早期治療が必要な場合には一期治療

一期治療終了後、歯並びや下あごの成長観察
↓                    ↓
治療経過が良い場合には終了       仕上げが必要な場合には二期治療開始

但し、患者さんが最初に矯正歯科医院を訪れる年齢により、二期治療から開始することもあります。

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②反対咬合のタイプと、用いる矯正装置について
機能性反対咬合の場合
機能性反対咬合は、一期治療(早期治療)だけで済む可能性があり、矯正治療後の経過は良好なものが多いと言えます。
習癖などで唇や舌などの口の周りの筋肉機能のバランスが崩れている場合は、筋肉のトレーニングを行います。
舌が下の歯列の中で低い位置にある場合(低位舌という)には、下の前歯を前方に押すため舌を持ち上げる訓練や装置を用いることがあります。
一般的に、上下の前歯の生え方の異常により、干渉して反対咬合になっている場合には、歯の位置を矯正装置の力で移動して歯の干渉を除く治療をします。
使用する装置は、口の中で取り外しができる方式や口のなかに固定する方式の矯正装置を用います。

骨格性反対咬合の場合
骨格性反対咬合の人の顔の骨格は、上あごが小さく(前方への発育がわるい)下あごが大きく(前方への発育が過剰)て、顔つきは下あごが突き出ています。
一般的に、骨格性反対咬合は、低年齢で上あごの成長を促し、下あごの成長を抑えて上下のあごの前後差を改善する矯正装置を用います。
この装置は、「上あご前方牽引装置」と呼ばれ、主に夜間装着してあごの成長をコントロールします。
骨格性反対咬合は、一期治療後のあごの成長や歯並びを観察して二期治療が必要になることが多いタイプです。
二期治療の仕上げは、歯の表面に部品をつけた固定式の装置(マルチブラケットと呼ぶ)でワイヤーの弱い力で歯を移動して治療をおこないます。
また、上の歯列が狭い症状(狭?歯列と呼ぶ)では、歯列や上あごを横方向に拡大して発育を刺激するような装置を用います。
反対咬合の家族性が強い場合、矯正装置により成長発育をコントロールができない場合や成人で骨格の改善を必要とする場合(顎変形症と呼ぶ)では、
大学生になり成長が終了した時期に矯正治療と外科手術を併用する治療法が必要になることもあります。

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③反対咬合の矯正治療は、早目に矯正歯科医にご相談下さい
反対咬合は、他の不正咬合と違い咬み方、のみ込み方、発音などお口腔機能への障害があります。
また、思春期に下あごの過剰な成長発育による精神面への影響があると考えられています。
そのため、お子さんの将来を考えて反対咬合は、低年齢時に矯正治療を開始することが望ましいのです。
学校の歯科健診で不正咬合と指摘されたり歯並びが気になった時点で、まず、私たち矯正歯科専門開業医にご相談されることをお勧めします。
医院選びは、長期的な矯正治療が必要になることが多いため、経験豊富な矯正歯科専門の歯科医師が常勤していることが大切です。
本やインターネットなどで自己判断されることは、適正な治療時期を逃す場合があります。
まず経験豊富な矯正歯科医にご相談下さい。

参考文献:日本臨床矯正歯科医会 神奈川支部

 


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