アンカースクリューを使った成人矯正治療
- アンカースクリュー(矯正用インプラントの呼称)
矯正用インプラントは、専門的には“アンカースクリュー”と呼ばれています。
港に入った船が錨(アンカー)を下ろして固定するように、金属のネジ(スクリュー)を
あご骨に埋め込んで奥歯が動かないように固定して前歯を移動する新しい矯正治療法
です。つまり、難しいケースで歯を効果的に移動することができるようになりました。
1945年頃から臨床応用されてきましたが、2012年に厚生労働省より“アンカースクリュー”
は薬事承認されました。
歯を失った場所に打ち込み、ブリッジなどを作る支柱とする一般歯科のインプラントとは
全く違うものです。2014年には健康保険が適用され、一部の矯正治療(顎変形症など)に
認可されています。
- アンカースクリューの種類
①セルフドリリングタイプ
ねじを切った釘のようなピンです。奥歯の外側や内側のあごの骨に、あらかじめドリルで
小さな穴を開けた場所にスクリューを植えます。局所麻酔をして注水をしながらドリルで
穴を開けますので痛みはありません。
②セルフタッピングタイプ
スクリューを直接あごの骨に、ドライバーでゆっくりねじ込んで植えます。スクリューの
植立は簡単な処置ですので、矯正診療所でも行います。大きな病院の口腔外科に依頼して
スクリューを植えてもらうこともあります。局所麻酔をして、特殊なドライバーで
ねじ込みますので痛みはほとんどありません。
③プレートタイプ
上あごのかたい骨に打ち込む、少し大きめのスクリューです。
- このようなケースに使う
“アンカースクリュー”は、主に、成長が終了した成人に使用します。矯正治療に協力が
得られない患者さん(15歳くらい)に使うこともあります。
アンカースクリューは、骨のかたい厚い部分(皮質骨)に歯根を避けて埋め込みます。
矯正治療ではアンカースクリューを利用して、歯の移動をおこなうため、力が加わり
ますので緩んで脱力することがあります。
このような脱力は、歯みがきがわるく口の中が不潔になっている場合は多いようです。
このような時には、再度場所を変えてアンカースクリューを埋め込む必要があります。
再埋め込みをおこなう場合には、費用が発生する場合もあります。
・使用するケースは・
①前歯を後退する時、奥歯と共にアンカー(固定源)として使う
②前歯の咬み合せの深い(過蓋咬合)ケースで、上の前歯を持ち上げる時の(抵抗源)
として使う
③上下の前歯間に空隙(開咬症例)があるケースで、上の奥歯を持ち上げる(圧下)
するために使う
④奥歯を後方に動かす時のアンカーとして使う
⑤奥歯が歯列からずれて咬み合うケース(交叉咬合)に使う
⑥永久歯が先天的に欠如しているケースや歯周病で奥歯が固定源にならない時に使う
⑦顎変形症など外科的手術を回避するケースに使う
⑧矯正治療に協力が得られないケースに使う
- メリットとデメリットは何か?
・メリットとしては・
①アンカースクリューの利用は、ほぼ痛みもなく難しいケースが治療できます。
②あご骨の外科手術が必要なケースが、アンカースクリューを使うことで手術が
避けられます。
③矯正治療で難しい、上の奥歯を持ち上げ(圧下)ができるようになりました。
④ヘッドギアの使用が避けられます。
⑤ゴムの使用など患者さんの協力が少なくてすみます。
・デメリットとしては・
①局所麻酔をしてスクリューを埋め込む処置が必要です。
埋め込み直後は、痛みなどの違和感が出ることがあります。
②アンカースクリューを埋め込んだ場所の粘膜に炎症が起きることがあります。
③矯正用アンカースクリュー代が、矯正治療費に加算されます。
④アンカースクリューが矯正治療中にゆるんで脱落し、植え直すことがあります。
⑤脱落するケースは、10本に1本くらいです。このようなケースは、口の中の
衛生状態が良くない場合やあご骨の固い部分(皮質骨)が薄い場合が多いようです。
- 術前の説明と患者さんの納得(インフォームドコンセント)
矯正歯科医と事前に十分説明を受け、納得されてからスタートしてください。
①スクリューを打ち込む部分の骨の状態をCTや断層レントゲン写真(パノラマ)を撮影
し、骨の厚み、歯根の状態、上顎洞、鼻腔の位置、粘膜の状態などを検査します。
②アンカースクリューが脱落した場合には、代わりの方法に切り替えることがあります。
その場合には、治療期間や目標が変わってきます。
③アンカースクリューを埋め込んだ直後は、口の中を清潔に保って下さい。
万一炎症を起こした時には、抗生物質などの投与をおこないます。
④あご骨が薄くスクリューが脱落した場合には、植え直すことがあります。
参考文献:日本臨床矯正歯科医会 神奈川支部