①わるい歯並び(不正咬合)には、出っ歯(上顎前突)、受け口(下顎前突)、らんぐい歯(叢生)の他に、開咬があります。
しかし、開咬は、一般にはなじみのうすい歯並びです。具体的な症状としては、歯をかみ合わせた時に上下の前歯の間にすき間が開いて、食べ物が噛み切れないような症状を言います。
日本人の不正咬合の発生率としては、出っ歯、らんぐい歯、受け口が多く、開咬の発生率は約4%です。
開咬は、本人や保護者にとって気づきにくい歯並びのため、学校の歯科健診やかかりつけ歯科医に指摘されて初めて気づくことが多いのです。
②開咬は、このような障害がある
開咬には、
・前歯で食べ物を噛み切れない
・舌が出て、サ行、タ行などの発音がはっきりしない
・話す時に、前歯の間から舌がみえる
・クチャクチャと音をたてて食べ、食べ物をこぼす
・口を開けて呼吸し、口元がだらしない
などの障がいがあります。
③開咬の原因は
開咬の原因は、頑固な指しゃぶりから移行したものや口呼吸によって生じた舌癖によるものが多いのです。
・頑固な指しゃぶりにより、上下前歯にすき間ができる
・飲み込む時に、前歯のすき間に舌が出る
・扁桃腺肥大や鼻炎などにより、口呼吸になる
・舌の下についているひも(舌小帯という)が短い
開咬は上下の前歯の間に指や舌がはさまり、上下前歯の間にすき間があくのです。
その他、環境的な要因としてアレルギー性鼻炎などにより口呼吸する習慣が、舌癖を出やすくします。
通常、私たちは意識せずに1日1500~2000回ぐらい飲み込み(嚥下)をおこなっています。
舌癖があると、前歯を押す舌の力は普通の人の3倍ぐらいになります。
その結果、唾液や食べ物をのどへ送る舌の動きがわるくなります。
最近の研究では、飲み込み時の舌の力だけでなく、リラックス時の舌の低い位置(低位舌)が歯並びをわるくすると言われています。
④開咬を治すには、いくつかの方法がある
開咬を治すのは、なかなか厄介なのです。
舌は、自分の意志で動かせる筋肉であり、患者さん自身が舌癖を治そうとする気持ちが大切です。
私たち矯正歯科医や歯科衛生士は、舌癖を治す指導(MFTという)をしたり、舌癖を意識させる装置(ハビットブレーカーという)を使うことにより支援します。
患者さんや保護者の協力があると、その効果はめざましくなります。
1)指しゃぶりが原因の場合
まず、指しゃぶりをやめさせる指導をします。そして、次に指しゃぶりの結果生じた上下前歯のすき間から出る舌癖を訓練します。
指しゃぶりが、4~5歳まで続くと、歯並びがわるくなります。指しゃぶりが6~7歳まで続くと、永久歯が生え変わっても開咬になってしまいます。
2)舌癖が原因になっている場合
舌癖を治す舌の訓練を指導します。具体的には、歯科衛生士が舌の動きを10回前後の訓練を指導します。
この舌の訓練を口腔筋機能療法(MFT)と呼び、舌の機能を正しく、口のまわりの筋肉を調和のとれた状態にしていきます。
MFTは、舌や唇の訓練であり、スポーツジムやウオーキングなどで衰えている筋肉を鍛える運動と同様に飲み込む方の訓練なのです。
3)舌癖の訓練で改善しない場合
フェンスやトゲ付の矯正装置(ハビット・ブレーカーという)を入れます。
矯正歯科医院では、舌が前に出ないようなフェンスやトゲのついた矯正装置を作り、舌が前に出ないように意識してもらいます。
4)口呼吸がある場合
扁桃肥大やアレルギー性鼻炎などがあり口呼吸をしていると、舌癖が出やすいのです。
扁桃肥大や鼻炎がある場合には、耳鼻科医に相談して下さい。
5)舌のひもが短い(舌小帯短縮症という)場合
飲み込む時やタ行、ラ行のなどの発音時に、舌の先が上に持ち上がりにくくなります。
舌の動きが良くなるように、歯科医院で舌のひもを切ることがあります。
6)永久歯列期(中・高生頃)で開咬がある場合
舌の訓練をおこない、矯正装置(マルチブラケット法という)で歯を移動して治します。
⑤開咬の治療は、早い方が良い
開咬は、放っておくと舌癖などによって歯並びやあごの骨にまで影響を与え、矯正治療が難しくなる歯並びです。
開咬は、年齢や症状によって治す方法が異なりますので、早い時期(就学前など)に矯正歯科医に相談しましょう。
参考文献:日本臨床矯正歯科医会 神奈川支部